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連絡が届いたのは1限目が終わった頃。すでに学校へ登校しているらしく、美月のクラスへ顔を出すと、美月は本題に入る前に連絡が遅れたことを謝った。
「どうしたの?」
「接骨院に行ってた」
「ケガしたの?」
「背中を痛めただけ」
「大丈夫なの?」
「大丈夫」
海星はそれ以上の追及はやめた。嫌がるだろうし、それが最善だって信じていたからだ。だけど、それから1週間が過ぎると、海星が1人で専用車両を座る日が3日に1度に増えていた。休み時間になって会いに行くと、教室で美月は自分の机を覆うように伏せていた。
「顔に痕がつくぞ」
海星の呼びかけに顔を上げた美月。ナマケモノみたいに鈍い動きで背筋を伸ばす。
「具合が悪いの?」
美月は首を振った。海星が美月の背中に触れた。痛がるのを恐れて、指先を当てるのが精いっぱい。
「痛いの?」
美月が首を振る姿は、声が出せないほど精神的に疲弊しているように見えた。海星は心配してはいけない。聞いてはいけない。そう自分で強いたルールを破るべき時なのかと考えていた。
「今週のデートはやめておく?」
美月は首を振った。
「どこへ行きたい?」
美月は動かなかった。ただ一点を見つめていた。デートのことを考えている表情にはまるで見えなくて怖かった。
「海星といたい」
それが美月の出した答え。チャイムが鳴って、生徒たちが席に着き始めた。海星は美月の肩に手をのせて、耳元へ。
「チャイムがなければ抱きしめてたよ」
美月だけに聞こえるようにささやいた。
「バカじゃん」
美月はじゃれるように海星の肩を殴って笑ってくれた。海星がドアまで歩いたところで振り返ると、美月が呆れるまでウィンクを繰り返した。海星は自分の教室へ向いながら、少しあからさまだったかなって後悔していた。
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