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「美月と何があったの?」
海星は授業が終わった瞬間に加恋へ問いかけた。
「亜理紗に聞いてよ」
加恋は追及を逃れるように、教師よりも先に教室を出て行く。次の授業が体育。女子は更衣室で着替えなくてはならないのに、加恋の体操着は机にぶら下げたままだった。それに海星が気づいたのは、すべての女子が教室を出て行った後。
海星が体操着を取って廊下へ出ると、戻ってきた加恋が見えた。海星が体操着を掲げると露骨に嫌な顔をした。受け取ろうと手を伸ばした加恋に、海星は手を引いて背中の後ろに体操着を隠す。
「条件がある」
「じゃあ、いらない」
大抵の女子なら困った顔して、取り返そうとあきらめない。これがちょっとしたお遊びで、軽く付き合えば返してくれるってわかっているからだ。
「美月のことじゃないよ」
「じゃあ、なに?」
「亜理紗のこと」
「亜理紗が何なの?」
「知らないんだよ」
「何を?」
「顔も名前もどこのクラスかもわからない。仲介してよ」
加恋はため息を一つ。髪の毛をかき上げて、どこを見るともなく焦点を浮遊させていた。亜理紗に仲介する労力と自分で説明する労力とを天秤にかけていた。
「面倒くさいな」
加恋はそう言って後者を選んでくれた。まず加恋が教えてくれたのは、怪我について。
海星が心配しているような病気ではなくって、本当に背中の怪我で接骨院に通っていた。怪我は1年生の時に痛めた箇所の再発。側弯症という背骨が曲がってしまう症状で、1年以上治療に専念して、先週ようやく復帰したばかりだった。美月が落ち込んでいる理由がそれなのかって海星は思ったけれど、加恋は首を横に振った。
「私のせいだから」
「何があったの?」
「裏切った」
「何を?」
「約束を」
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