二日目、朝

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「今すぐそれをお出しください」  顔を上げると間近に彼の顔があり、布越しに目が合ったように思う。しかしそれを出せ、とは。 「あなたの口には合わないでしょう。お出しください」  空のグラスを差し出され、今自分が口に含んでいるものを出せと言われているのだと理解する。いや、それでも一度口に入れたものを人前で出すわけには、と首を横に振ると早く、と催促され、泣く泣くアルヴェーンさんの前で口を隠しながら液体を吐き出す。 「申し訳ありません……」  全て出しきり、口の中に残る気持ち悪さに耐えるとすぐに水を差し出され、口の中を浄化する。  出すところから最後までまじまじと見つめられ、居たたまれなさと羞恥心、そして他国の宰相に痴態を見せてしまった申し訳なさですぐに謝る。 「一滴も飲み込んではいませんね?」  改めて聞くアルヴェーンさんに頷きを返し、礼を言う。 「ありがとうございました。その、少し困っていたので……」  飲み込めませんでしたとは言えず、濁して告げる。アルヴェーンさんは微笑みながら、あなたが飲まなくて良かったと言った。  その言葉に一体これが何の液体だったのか、わかってしまったが、わからないことにしておこう。あまり考えたくはない。     
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