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一生に一度のオーディション
「何で今日に限って……」
いつも寝坊なんかした事ない僕が、オーディションの当日に寝坊してしまった。
飛び起きた僕はトイレに駆け込んだ後に急いで着替え、身支度もそこそこに家を飛び出した。
オーディション会場まではここから約1時間。
今からだったらギリギリ間に合う。
駅までは全速力で走れば5分で着く。
8時の電車に乗れれば何とか9時のオーディションには間に合うはずだ。
僕は一生に一度のこのオーディションの為に4年間の全てを注いできたんだ。絶対に遅れる訳にはいかない。
「……たい……い……痛い……」
僕が歩道を全力で走っていると、前の方でお婆さんがうずくまっているのが見えた。
近づくにつれてお婆さんの声が大きく聞こえてくる。
「痛い!痛い!痛い!」
だ……大丈夫か?
明らかに苦しんでいる様子だった。
周りには僕以外誰もいない。
今、お婆さんを助けられるのは僕しかいなかった。
しかし、ここでお婆さんを助けていたらオーディションには絶対に間に合わない。
そう思いながらも僕は走るスピードを若干ゆるめ、お婆さんの横を通りすぎる時に前から様子を確認した。
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