一生に一度のオーディション

1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

一生に一度のオーディション

「何で今日に限って……」  いつも寝坊なんかした事ない僕が、オーディションの当日に寝坊してしまった。  飛び起きた僕はトイレに駆け込んだ後に急いで着替え、身支度もそこそこに家を飛び出した。  オーディション会場まではここから約1時間。  今からだったらギリギリ間に合う。  駅までは全速力で走れば5分で着く。  8時の電車に乗れれば何とか9時のオーディションには間に合うはずだ。  僕は一生に一度のこのオーディションの為に4年間の全てを注いできたんだ。絶対に遅れる訳にはいかない。 「……たい……い……痛い……」  僕が歩道を全力で走っていると、前の方でお婆さんがうずくまっているのが見えた。  近づくにつれてお婆さんの声が大きく聞こえてくる。 「痛い!痛い!痛い!」  だ……大丈夫か?  明らかに苦しんでいる様子だった。  周りには僕以外誰もいない。  今、お婆さんを助けられるのは僕しかいなかった。  しかし、ここでお婆さんを助けていたらオーディションには絶対に間に合わない。  そう思いながらも僕は走るスピードを若干ゆるめ、お婆さんの横を通りすぎる時に前から様子を確認した。     
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!