父親のDNA

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「ただいま、」 帰って来た父さんが、机の上に紙袋を乗せた。 「…おかえり、今年も大量だね」 と、母さんが笑う。 4月15日。今日は父さんの誕生日だった。毎年、父さんの誕生日とバレンタインは、机の上がプレゼントで山盛りになる。47歳にもなって、未だに会社で色目を使われているらしい。 「要らないって言ってんのにさ…毎年困るよ、」 父さんは、大手IT企業の役員だ。身長が高くて、センスが良くて、歳の割に若く見えて。実の息子の俺から見ても、文句無しに格好良い。 学校のイベントに父さんが来たら、先生や友達の母親、同級生までもが根こそぎ色めき立つ。この辺じゃちょっとしたアイドル状態だ。 だけど父さんはそれを鼻にかけたりしないし、誰にだって分け隔てなく優しい。だから俺は、ファザコンだって笑われるかもしれないけど、本気で父さんに憧れている。 「今日はね、お父さんの大好きな肉じゃが!」 それに比べて、母さんは普通だ。何というか…とにかく普通。おまけに天然で、影響されやすくて、おっちょこちょいで。完璧な父さんが、そんな母さんと何で結婚したのか、未だに全然分からない。 「わ、美味そう…!」 肉じゃが1つで嬉しそうにしている事だし、きっと父さんも母さんのことが好きなんだろうけど。俺的には、多分母さんがしつこいくらい猛アプローチしたんだろうな、と予想している。 「ぎゃっ!服に付いた!」 ホラ、今も皿によそった肉じゃがを、白いブラウスに溢したところだ。 「…エプロンしろっていつも言ってるだろ、脱げよ」 「脱げって…、いやらしい!」 「バカ、何言ってんだ。取れなくなるだろ?シミ抜きしてやるって言ってんだよ、」 そんな高校生みたいな会話を、キッチンで繰り広げている。 父さんと母さんは本当に仲が良い。未だに名前で呼び合ってるし、キスしているのを見かけるくらいだ。本人たちはコッソリやってるつもりだろうけど、全然 隠せてない。 だから、夜は2人の寝室には怖くて近付けない。歳の離れた兄弟が出来たらどうしよう、と今でも不安だ。良い歳して、イチャイチャするのはそろそろやめて欲しい。
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