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「きっとエラい人は、大衆から思考力を奪いたいのね。口を半開きにしてスマホに夢中になっていてもらいたいのよ。その間に社会はもっと権力者の住み良い世界になっていく。働き蟻が……」 「『働き蟻が、無駄な知恵をつけないように』、ね。その通りだ。でもこのままじゃ働き蟻すらまともに働かない世の中になっちまいそうだけど。コンビニも建設現場も外国人ばっかりだ。さ、俺は酒はいらないよ。どうする? 部屋はとってあるの?」  言いながら、由之はもうスツールから腰を浮かせている。もちろんそのつもりだった私も、「ええ」と返事をして後に続く。  ふたりでいつも使うダブルの部屋へと向かう。このホテルは1泊が4万円もするけれど、由之とのこの時間には値段は付けられない。 「ねえ。今日ぐらいは泊まっていけば? 顔色がとても悪いわ。家に帰るよりその方が朝もゆっくり休めるじゃない」 「……そういう訳にもいかないんだ。うちのがもうすぐにでも産気づきそうでね。出産に立ち会わなきゃならない。なるべく家にいてくれって言うから、明日からしばらく有休を取るんだよ……」   情事の始まりに、こんなことを言う。由之は酷い男。けれど私にそっくりな性格をした精神的な双子。だから私もふざけたふりをして、酷い皮肉を吐いてやるのよ。 「そう。じゃあ早速お帰りなさいな。あなたの大切な奥さん、随分と太っていたわね。ああいう女は子供を出してもぶくぶくと太り続けるのよ。あなたが昔好きだった、私の妹みたいにね。出産機能付きの素敵な家政婦をお持ちで羨ましいわ。きっと夜の方も熱心にご奉仕して下さるんでしょう。どこが胸だか腹だか分からない身体を、たっぷりとお楽しみになればいいじゃない」 「意地悪だなあ。もうこんな状態じゃ服なんか着れないよ。……ね。本当に美花はそんなに惨たらしいことになってるの? あんなに綺麗だったのに。もう全然表に出てこないのは見られないような容姿になってしまったから? 旦那とはうまくやってるのかな」  由之は私の喜ぶ言葉を知っている。私の妹に対する、侮蔑と嫌悪を知っている。知っていてこの男はわざと私に言わせるのだ。自分に向けてその言葉を吐く時、私がどんな快感に包まれるのかを知っているから。
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