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「ただの、ブタよ。パパブタと子ブタのエサを毎日毎日鼻歌歌いながらこさえてるわ。パパブタの稼ぎで買える精一杯のブタ小屋を馬鹿みたいにぴかぴかに磨き上げてる。幸せで幸せでしょうがないってブタ語で言ってたわね。昇進なんて一切ないパパブタと手に手を取って一生添い遂げるんですって。手に手を……じゃないわね。ひずめね、ひずめ」  私の下半身に埋もれていた由之は、堪えきれずにぶっと吹き出す。こんな表現は何回も使ったけれど、その度に由之は可笑しくて仕方がないと言わんばかりに笑う。私がその反応に、猟奇的な気分になることを知っていてやっているのかも知れない。 「結花にして、良かったな。美花にしなくて良かった。お前は本当に面白い女だ。結婚なんかすんなよな。俺達はいつまでもこうやって遊ぶんだ。お互い自分のフィールドで戦って、たまにこうやって刺激を与え合いながら」  次は私が由之の下半身に埋もれる。この男が好きな喉まで使うやり方で、簡単にこの男を降参させる。出たものを全部飲み込むともっと猟奇的な気分になる。この私によく似た男を、めちゃくちゃにしてやりたいと思う。 「いつあなたに選択権があったのよ。美花には振られたんでしょう。私があなたを誘ってあげた。あなたには選択権なんかない。今だって私の裁量ひとつであなたの首は締まるのよ。忘れないで。あなたに選択権なんかない」 「……怖いな。でもそこが結花のいいところだ。本当は分かってるんだろう? 結花にだって選択権なんかない。結花はもう俺から離れられない。俺の裁量ひとつで副編集長様はただの女に成り下がるんだ。刺を全部抜いてやる。今だけはプライドも小賢しさも全て奪い去ってやるよ」  私達は繋がっていても意地悪な言葉でお互いを皮肉り合う。真夜中まで何度もして、それから由之はシャワーを浴びて身重の妻が待つ家へと帰っていく。最後にスーツの背中が、振り返って。 「あ、しばらく連絡はしてこないで。かわいい赤ん坊が産まれるんだ。俺、パパにならなきゃいけないから」  ――そんなことを言い残して去っていく。  私は今夜の情事に4万円の価値はあったのだろうかと、ぼんやりと考えながらそのまま眠りにつく。
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