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何をしても真っ黒い雲は晴れなかった。仕事に没頭した。そんなある日、美花からいつもの定期連絡があった。この日の内容は、少し違った。
『お仕事頑張ってる?お疲れ様です。
楓花が小学生さんになるお祝いのパーティーをしようと思うの。
今週の日曜日、都合はどうかしら?』
楓花というのは美花の娘だ。私達双子の美しい顔の作りとはかけ離れた面相をしている。パパブタにそっくりな楓花が、美花の手作りのフリルのワンピースを着て微笑む画像が添付されている。
私はくす、と笑う。返事を返す。
『とっても楽しみだわ。
楓花にプレゼントは何がいいか訊いておいてね。
必ず時間を空けて伺います。
ワインも1本持って行くから、秀樹さんにお楽しみに、と伝えて下さい。』
秀樹というのが美花の夫。相変わらず浄水器を買ってくれと頼んで回る仕事をしている。
――雲が、晴れるかも知れない。
私は手帳を取り出し予定の確認をする。いくつか電話をかけその日の予定を開ける。ついでに馴染みの酒屋にメールしていいワインを1本注文する。玩具メーカーのサイトから、楓花が好みそうなおもちゃをいくつか下見する。
今週の日曜。あと4日。楽しみだ。その日を想像すると思わず頬が緩んでしまう。
雷雲を払うには、大雨を降らせ雷を落とすしかない。
その先には快晴の青空が待っていることだろう。美花の結婚式の日に感じた、鐘が鳴り出しそうな歓喜の瞬間のように。
ワインは自虐の悪魔への捧げもの。どうやって息の根を止めようかとシミュレーションをしながら、私は4日後の日曜日がやって来るのを待っている。
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