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 美花の家は山沿いの新興住宅地にある。結婚してすぐに購入した小さな建売住宅だ。  造りは3LDK。ガレージは1台分で、申し訳程度の庭が付いている。引越しのお祝いに訪れた時、「どうしてもっと広い家にしなかったの」と訊いた私に美花は言ったものだった。 「分相応、って大事なことだと思うから。当分私は仕事をするつもりがないし、大きなローンを組むのも怖いもの。この家でも、私は充分に満足しているわ」  この家なら、はっきり言って私が一昨年買った分譲マンションの方がよっぽど広い。とは言え全ての部屋に物が溢れている私のお城は、このブタ小屋より随分と狭く感じることは否めないけれど。  季節の花が咲き乱れる小さな庭を通って、玄関先のポーチでインターホンを押す。春の日差しの中で色とりどりのチューリップが揺れているのを見たのは一瞬で、すぐに玄関の扉が開きかわいい子ブタちゃんが私に飛びついてくる。 「結花ちゃーんいらっしゃい! 待ってたんだよ! 楓花、ママと一緒にたくさんごちそう作ったの! いっぱい食べてね! 結花ちゃん、早く早くっ」  私は楓花にまとわりつかれながら玄関でピンヒールを脱ぐ。リビングにはフリルのエプロンをつけた美花とポロシャツ姿の秀樹がいた。出迎えた美花にワインが入った紙袋を渡してから、私はこのブタ一家ににっこり微笑みかける。 「今日はお招きありがとうございます。楓花、小学生さんになるのね。おめでとう。これ、私からのプレゼントよ」  きゃー!! と甲高い声で抱きついてくる楓花。私が渡したゴールドのナイロンの包みを引き破り、中から飛び出したおもちゃの箱をぎゅっと抱きしめる。そこには怪獣の卵が入っている。それを孵化させると機械仕掛けの怪獣の人形が産まれてくるという寸法のおもちゃらしい。 「まあまあ、結花、ありがとう。楓花ったらずっとこのおもちゃを欲しがっていたんだけど、なにせ我が家には高価すぎて。買ってあげることが出来なかったんだけど、結花のおかげで楓花の最高の笑顔を見ることが出来たわ。しかもこんな珍しいワインまで。見て、あなた」
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