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 相変わらず自己卑下の権化みたいなことを言いながら、美花がワインのボトルをソファの秀樹に手渡している。でっぷりと太った美香。80キロは軽く超えているだろう。そのボトルを苦笑いで受け取る秀樹も100キロ近いだろう巨漢。私は秀樹の斜め前のひとり掛けソファに腰を下ろしながら、非難めいた口調で美花をたしなめる。 「まあ、美花ったら。ひどいことを言うのね。毎日大変な思いでお勤めに出て下さっている秀樹さんの気持ちを考えたことがあるの? 美花は社会から遠ざかって長いから忘れてしまっているかも知れないけど、働きに出るってそれだけで相当な覚悟が必要なのよ。それをまるで、『秀樹さんの稼ぎが悪い』ような言い方をするなんて」 「いや、いや、いいんですよ結花さん。事実ですからね。僕なんかは社会の底辺のしがない営業マンで、有名出版社で副編集長をされてる結花さんに比べると恥ずかしい限り。だから、家族にも窮屈な思いをさせてしまって」 「あら秀樹さんまでなんてことを。収入の額が努力に比例しないことが、美花には分かってないんですわ。駄目よ美花。あなたがそうやって幸せそうにこの家を磨き立てられるのも全て秀樹さんのおかげ。いくら狭い家とは言え、働きに出ている兼業主婦の方達はこうはいかないんですからね」
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