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ブタとセックスをしたのは生まれて初めてだった。ブタもそれなりのことをするのだから私は驚いてしまった。
『うだつの上がらない営業マン』であるブタにはきっとこの後のアポイントもなかったのだろう。私に何度も攻められベッドの上で寝入ってしまった。私はその寝顔をスマホで撮影する。これで、ブタの首には鎖がついたことになる。
入念にシャワーを浴びた。ブタのすえた体臭の向こうに垣間見える、双子の妹の気配を消すために。支払いだけはしてやってから、ホテルを出る。
妹はそろそろ奥様とご対面している頃だろうか。予定日を過ぎて帝王切開になった奥様は、切られた腹と裏切られた心の両方を痛めていることだろう。子供なんか腹に入れるから裂かれる羽目になる。身体には一生の傷が付く。もう女じゃない。腹に傷がついた女は、『母』となりその裸は男を欲情させることはなくなってしまうのだ。
ブタの鎖は少しずつ締め上げてやれば良い。ブタは妹を捨て私にも捨てられる。楓花を片親にさせてしまうことは偲びなかったが、まあ強く生きていってもらうしかない。
何もかもが、思惑通り。
私は編集部に取って返す。もうすぐ私がその頂点に立つあの男の戦場。
そこで辣腕を振るう私はどんなに輝いて見えることだろう。想像するだけで身が震えるようだ。何もかもを壊したその先には、輝かしい平原が広がっているに違いない――。
「あなたが、畑山結花っ?」
編集部の扉を開くと、応接スペースに見たことのある顔の女がいた。立ち上がると私に詰め寄る。振り乱した髪。だらしなく太った身体に布を被ったようなワンピース。その鬼気迫る表情に、編集部全体が凍りついているのが分かった。
「証拠は、上がってるのよっ! 夫とのラインの一部始終! 編集長さんに見て頂いたわ! ネットに流してやるっ。『週刊普遍』の名前を、めちゃくちゃにしてネットで大炎上させてやるっ!」
その向かいには余裕すら浮かべた表情の編集長。ヒゲの顎を指先で何度か擦りながら、芝居がかった様子で大きな溜め息をつく。
「……まあまあ奥様。落ち着いて下さい。本来、そのような主張や職場に乗り込んで来られるという行為は『威力業務妨害』に当たる可能性もあるんですよ。畑山くんにもうちの雑誌にも、一応メンツってものがあるんでね。……でも、お怒りはよく分かりますから」
にやり、と笑う。私は、震撼する。
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