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 そうやって由之と会った翌日には、ホテルから出勤する。昨日と同じスーツで仕事に向かうことになるけれど、構わない。私はその豪胆で周囲の人間を沈黙させる。昨夜の生々しい情事を、突きつけるようにして職場に現れる私を揶揄できるような部下はいない。  部内唯一の上司である編集長は、50代のぎらついた男。この男とも私は関係を持っているけれど、構わない。資料室に私を連れ出し、昨夜はどこにいたんだと詰問してくる編集長に、冷たい目を向け言ってやるのだ。 「どこでも、いいでしょ? あなたなんて呼び出したってすぐに出て来れないじゃない。愛妻家なんて嘯いてる身で私を束縛するなんて、一体何様のつもりなのかしらね」  その場で着衣のまま私達はセックスをする。どうせこうなると思っていたから、私は昨夜のあとシャワーを浴びていない。  私の精神的な双子を、こうして汚してやるのだ。太った妻と腹から出てくる赤ん坊の方が私より大切だと思っている、精神的な双子を。  わざと大きな声で喘いでやる。焦る編集長を見るのは面白い。この男の首根っこも私が掴んでいる。異例の若さでの副編集長抜擢が、この背徳的な時間の引き換えだと知ったら周囲はどんな顔をするのだろうか。 「結花は、刃物みたいだな。書く記事もそうだ。無二の視点で物事の中心まで一気に切り込む。遠慮も妥協もない。息の根を止めるような記事を書く。そして返す刀で、自分まで傷つけて血みどろになる。その太刀筋があまりに見事で、俺は目が離せない」  立ったままの行為が終わってこの男は私を抱きすくめる。こんな甘っちょろい時間は嫌いだ。その胸を両手で軽く突いて、余計に立ち込める雷雲を払うべく私はこの男が言うところの刀を振るう。 「そろそろ逃げなきゃ、あなたも瀕死の重傷を負うわよ。帰るおうちがなくなっても知らないから。私は遠慮も妥協もない女。あなたなら社内にいくらでもポストを望めるでしょう。編集長の椅子は、さぞかし良い座り心地をしているんでしょうね」  男は、絶句する。
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