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 美花の結婚式は身内だけの小さなもの。  美花の夫となった男は、ただのサラリーマンだった。教室に来ていた生徒。美花は自分の生徒に手をつけて、しまいには結婚してしまったのだった。  容姿も凡庸で聞いたこともない中小企業で働いている男。私は可笑しくて仕方なかった。私が常に比較され疎ましく思っていた双子の妹は、どう考えても勝ち組とは言えない男のものになってキャリアまで捨ててしまうのだという。 「結花、結花だけには本当のことを言うわね。あたし、実はお腹に赤ちゃんがいるの。まだ苺ぐらいの重さしかないんですって。でももうお腹が空いて空いて。どうしても食べちゃって、体重が5キロも増えちゃったのよ」  新婦控え室で、微笑みながら美花は私に耳打ちする。両親にも明かしていない事実。急な結婚式にはそういうからくりがあったのか。私はますます可笑しくなって、二重あごも福福しいこの馬鹿な双子の妹の腹を優しくなでさする。 「いいんじゃない? 美花はいつだって女の象徴みたいな存在だった。綺麗好きで料理上手で。たおやかで男の憧れの的だったもの。美花ならきっと素敵な奥さんになるわ。そしてきっと優しくて綺麗な、お母さんになるのよ」  結婚式は昼間だったから、終わるとすぐに私は編集部にとって返した。仕事に邁進すると決めた私には、日曜日もなければ有休もない。  心の中では勝利の鐘が鳴り響いている。勝った。長年悩まされてきた目の上のたんこぶが、今日はっきりと私の前から姿を消した。美花はもう、私が恐れなければならない存在ではなくなったのだ。  似た顔立ちなのに私より確実に美しい美花。私と美花が並んでいれば、男は常に美花を見る。私がどんなに一生懸命、その男を見つめていたとしても。  その度私は平気なふりをしながらこっそり泣いた。家では泣けなかった。だって自己卑下しながら私を褒め称える悪魔は家にいる。私達には個室もなくいつまでも二段ベットで寝起きしていた。私が散らかした部屋を何も言わずに片付ける美花。まるで自分の女らしさを、誇示するかのように。
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