プロローグ

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 とはいえ、それは完全な主観だから、俺がどう言ったって変わらない。だから俺は、地元の特産品の頂き方についてはとやかく言うことを放棄した。  窓の外を見てリラックスしている頭でどうでもいい持論を展開していると、新幹線は新高岡駅へ着いた。俺の目的の駅にはあと10分程で着くので、俺は荷物の整理を始めた。  再び進みだした新幹線は、次第にそのスピードを徐々に上げて、荷物をまとめ終わるころには次の停車駅を知らせるアナウンスが流れ始めた。  乗車口付近へ移動すると、そこは富山駅で降りるであろう人で溢れかえっていた。その中に俺も混じって、富山駅に到着するのを待った。  富山に帰ってきた。久しぶりの故郷の空気は、細胞の奥深くに眠っていた何かを呼び起こした。その何かの正体は、あまり時間を置かずに現れた。  富山駅のホームから、階段を下りてエントランスへ来て見ると、見慣れた風景が俺の視界を覆った。駅と繋がっている土産屋、市電の乗車口。エントランスの外には、様々な場所へと利用者を運んでくれるバスターミナル。駅のエントランスにいるだけで、俺の中の青春時代が思い出された。  俺はそこから地方鉄道の立山行きの電車に乗った。富山駅が終点の地方鉄道では、どこへ行く電車に乗っても俺が行く場所の最寄り駅へ行ける。俺は慣れ親しんだそれに、久しぶりに乗った。  電車内は比較的空いていた。夏の陽気から逃れるように入ったそこで、運転席側のつり革につかまって、発車時間を待った。5分もかからずに、地鉄の電車は線路の上を走り出した。  電鉄富山駅から5駅先の、越中荏原駅。そこで俺は降りた。この駅からしばらく歩くと、俺が当時通っていた高校がある。俺はそこへ行くために、わざわざ帰省してきたのだ。  昔のままで変わっていないものもあれば、変わってしまったものもある。その変わりようや、変わっていない安心感が、俺の心をくすぐった。  道なりに進むと、その高校の敷地であるソフトテニス部のテニスコートが見えた。真夏の真昼間だというのに、部員らしき連中がラケットを振り回していた。俺はその様子を尻目に見ながら、お節介ながら「がんばれ」とエールを送った。  さらに進むと、昔の雰囲気を残したままのそれが、要塞のように佇んでいた。
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