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「こっからだと、どれくらいかかるんだ?」
「そうだな……。まあ十分はかかんないよ」
「そっか」とやり取りをして、俺たちは黙った。相変わらず、雄二は黙ったままだったけれど。
待つこと数分。氷見ふれあいスポーツセンター行きのシャトルバスは、ゆっくりと動き出した。
要の言った通り、目的地までは十分とかからずに着いた。バスから降りて一般の人用の入口を通ると、空気ががらりと変わった。誰もが体育会系の雰囲気を纏っていて、とても同じ人間だとは思えなかった。
「そろそろかな……」
隣で要がそうつぶやくのが聞こえた。ふと見ると、手首に巻いた腕時計に視線を落としている。
「なあ、要。そろそろ教えてくれても良くないかな? 何でこんなとこまで来たんだよ?」
「もう、拓真は鈍いねぇ。あれが見えないかね」
そう言って要が自身の後ろを指さした。その方を見ると、ギャラリーに続いていると思われる階段の手すりに、『北信越中学校ハンドボール大会』と書かれたものが飾られていた。
「え? 要ってハンドボールの経験あったっけ?」
「あったよ。言ってなかったっけ?」
「聞いてない、今知った」
「まあとにかく、私は中学でハンドボールの経験があったの。そこまで強いとこじゃなかったけどね」
俺は驚くことしかできなかった。女子の容姿について無頓着な俺の目から見ても、要は運動をしていたとは思えないほど華奢な体つきだ。それなのに、過去に世界一激しいスポーツと言われるハンドボールの経験があったなんて、それはもう驚くほか無かった。これについては雄二も知らなかったらしく、目を見開いて驚いていた。
「そうだったのかよ。全然気づかなかった。要のスタイルだったら、絶対似合わなそうなのに」
俺は雄二とそんな話をしながらギャラリー席へ向かおうとした。その足が止まったのは、これに誘った本人が動いていなかったからだった。
「……? どうした?」
要を見る。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして固まっていた。やがて、要はその顔を徐々に綻ばせ、俺の肩を小突いてきた。
「ちょ、なんだよ」
「別に~」
一人だけ上機嫌な要を後から追いながら、俺は頭上に「?」を浮かべることしかできなかった。
ギャラリー席に上がると、応援集団やこの大会に参加するチームの掛け声なんかでほとんど俺たちの会話は通らなかった。
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