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俺は要の後をついていく。雄二もそれに続く。要はギャラリーから身を乗り出して、コートを睨みつけるように見下ろしていた。俺もそれに倣って見てみると、丁度赤いユニフォームの富山のチームと白いユニフォームの県外のチームが試合をしていた。スコアを見ると、24対15。富山のチームが勝っていた。点数を見る限り、後半戦だろう。
「間に合った、良かった」
喧騒の中、要の声がした。隣では、我が子の成長を見守る親のような眼差しをした要が、コートを優しく眺めていた。
「このためだったの?」
「うん。弟の晴れ舞台だから」
要はその後も、進行形で試合が行われているコートを見ていた。次第に俺もその試合に釘付けになり、試合中の僅かなチャンスにも一喜一憂した。
俺は試合を見ながら、こんな風に過ごすのも、ありかもしれないなと思った。
試合終了のホイッスルが鳴った。後半戦、富山チームの猛攻が次々と得点につながり、最終的には31対17の点差で富山チームが勝った。ボールの運びの中でチャンスを逃すことなく、確実に堅実に点に繋げている印象があった。僅かな隙間を狙ってパスを回し、様々な場所からシュートを打っていた。時には速攻を決めるシーンが見受けられて、俺も要も自分の事のように喜んだ。
「はぁー! 凄かったー!」
ロビーに降りて一番に要が言った。
「確かに。あれは燃えたな」
「でしょ ?拓真ならそう言うと思ってたんだーって、あれ? 雄二は?」
ふと見まわしてみる。いつの間にか雄二だけでどこかに行ってしまったようだった。
「そういや、さっきトイレ行くって言ってたけど、遅すぎじゃねえか?」
ありえないとは思ったけれど、一応念のために電話をしてみた。数回のコール音の後、気だるげな声がした。
『んー? どうした、拓真』
「お前さん、今どこにいる?」
なんだか変な言い回しになってしまったけれど、気にしないことにした。
『どこって、トイレだけど』
「長すぎんだろ、このだらめ」
思わず富山弁が出てしまった。「馬鹿」という意味の「だら」という言葉。
「いや、二人の方が楽しそうだったから」
「何言うとるんだ己は。いいからさっさと戻って来い」
それだけ言って電話を切った。要には、事の詳細を言うと難しくなるので適当に誤魔化しておいた。
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