第1章 タイム・トラベル

6/17
前へ
/50ページ
次へ
 俺は要の後をついていく。雄二もそれに続く。要はギャラリーから身を乗り出して、コートを睨みつけるように見下ろしていた。俺もそれに倣って見てみると、丁度赤いユニフォームの富山のチームと白いユニフォームの県外のチームが試合をしていた。スコアを見ると、24対15。富山のチームが勝っていた。点数を見る限り、後半戦だろう。 「間に合った、良かった」  喧騒の中、要の声がした。隣では、我が子の成長を見守る親のような眼差しをした要が、コートを優しく眺めていた。 「このためだったの?」 「うん。弟の晴れ舞台だから」  要はその後も、進行形で試合が行われているコートを見ていた。次第に俺もその試合に釘付けになり、試合中の僅かなチャンスにも一喜一憂した。  俺は試合を見ながら、こんな風に過ごすのも、ありかもしれないなと思った。  試合終了のホイッスルが鳴った。後半戦、富山チームの猛攻が次々と得点につながり、最終的には31対17の点差で富山チームが勝った。ボールの運びの中でチャンスを逃すことなく、確実に堅実に点に繋げている印象があった。僅かな隙間を狙ってパスを回し、様々な場所からシュートを打っていた。時には速攻を決めるシーンが見受けられて、俺も要も自分の事のように喜んだ。 「はぁー! 凄かったー!」  ロビーに降りて一番に要が言った。 「確かに。あれは燃えたな」 「でしょ ?拓真ならそう言うと思ってたんだーって、あれ? 雄二は?」  ふと見まわしてみる。いつの間にか雄二だけでどこかに行ってしまったようだった。 「そういや、さっきトイレ行くって言ってたけど、遅すぎじゃねえか?」  ありえないとは思ったけれど、一応念のために電話をしてみた。数回のコール音の後、気だるげな声がした。 『んー? どうした、拓真』 「お前さん、今どこにいる?」  なんだか変な言い回しになってしまったけれど、気にしないことにした。 『どこって、トイレだけど』 「長すぎんだろ、このだらめ」  思わず富山弁が出てしまった。「馬鹿」という意味の「だら」という言葉。 「いや、二人の方が楽しそうだったから」 「何言うとるんだ己は。いいからさっさと戻って来い」  それだけ言って電話を切った。要には、事の詳細を言うと難しくなるので適当に誤魔化しておいた。    
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加