プロローグ

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 俺は今、地元に帰るために新幹線に乗っている。12年前、俺が小学校を卒業する日と同じ日に開通した、北陸新幹線。  俺の今の生活拠点は、地元のすぐお隣の県。だからリアルな話をすれば、高速道路を使った方が断然金が安く上がる。でも、俺は新幹線を介して帰郷したかった。出ていくときは免許取りたてのガチガチに緊張した状態で出て行ったから、今度は少し余裕をもって帰ってきたかったのだ。それにせっかく通ったのだから、一度くらいは利用しておかないと勿体ない気もする。  一時間もかからない乗車時間は、早々と移り変わる景色を見ていれば充分時間は潰せる。俺は昔から、窓の外を見ることが癖だった。  家族で遠出する時もそうだった。家族でどこかへ行く時、だいたい俺は窓側の座席に座って窓の外を眺めていたものだ。  これから帰る場所は、今俺が住んでいる金沢から高岡駅を経由して40分程で来ることのできる街。富山県の富山市だ。富山の魅力は何かと聞かれたら、まず最初に挙げるべきは海の幸だろう。ここは春夏秋冬365日、常に旬の魚が揃っている。春では海の宝石と言われるホタルイカ、夏は白エビという風に、その季節ごとに旬となる魚介類が出揃っているのだ。中でも群を抜いてお勧めしたいのは、地元の氷見漁港から直送される寒ブリの塩焼き。そうでなかったらぶり大根。この二つは欠かせない。  特に寒ブリは、人間でいう顎の骨のあたりに当たる「ぶりカマ」と呼ばれる部位が絶品だ。巨大な骨の裏側に詰まっている脂がのったその身は、富山県民の俺から言わせても頂かないわけにはいかない。  しかし、そんな俺にも許せないものがある。それは「鰤しゃぶ」だ。あれだけはどうしても許せない。  何が嫌って、まずはその頂き方だ。脂がのった新鮮な切り身を沸騰した湯の中にくぐらせて、せっかくの脂を落としてしまうその食べ方に、俺はどうも納得がいかない。百歩譲って、それが県外の―例えば東京の料亭などで行われるのなら、まだ許そう。でも、最近は県内の風流な旅館ですら、富山の魅力であるそれに泥を塗るようなことをしてしまっているのだ。もちろん、普通に刺身で出される分には問題など微塵もないが、それに加えて沸騰しかけの透明な液体が入った鍋を持ってこられたら、それだけでげんなりする。
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