第2章 青い夏の道

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1.  あれから数日、俺は相変わらずだった。抜け出せそうにない繭の中にくるまれながら、二人の友と無駄のようで実は大切な時間を過ごした。  そして、終業式の前日。7月24日。この日は山王祭の当日だった。日を追う毎に気温も高くなって、7月の初めは30度に達していなかった最高気温が、このころになると既に30度になる日が多くなってきていた。  「ねえねえ、今日の約束覚えてる?」  終業式が終わるや否や、要が俺のもとへ来た。何のことかはわかっているので、俺は普通に答える。 「分かってるよ。夕方にグランドプラザだろ?」 「よろしい、ちゃんと分かってんねぇ!」  要は浮足立つといった様子で上機嫌だった。それを見て、俺は要の保護者になった気分で眺める。なんだかんだ言って、二人といるのは楽しいのだ。無関心な雄二に茶々を入れて、要とふざけ合って、三人で放課後に駄弁りながら帰る。こんな何でもない日常を過ごしている時点で、俺はこの世界に未練を持っているのかもしれない。  一学期最後のホームルームが終わり、俺たちは夕方の準備のために早めに解散した。  夕方16時に、俺は家を出た。俺の家からグランドプラザまでは、徒歩で一時間。電車では30分ほどで着く。混雑する可能性も十分に考えられるので、俺は余裕を持つために電車で行くことにした。  俺の家から近い最寄り駅―稲荷駅は、祭りに行くであろう人が多くいた。俺はその人たちの間をすり抜けて、ホームのベンチに座った。電車が来るまでまだしばらく時間がある。俺はスマホで音楽を聴きながら待つことにした。  電車が来るまでまだ時間があった。と、俺の眼前に誰かが来た。きっと、電車を待つ人だろうなと思って無視していると、不意に肩を叩かれた。 「……?」  怪訝に思って顔を上げると、そこには知らない女がいた。理解に数秒を要して、ようやく目の前の彼女が要だとわかった。俺は音楽を止めて、イヤホンを外した。  「何してんの、お前……?」  完全に間違ったことを聞いたけれど、要は気にしないでくれた。  「何って、ここ私の家から一番近いからさ」  「あ、そうだったんだ……」  俺は納得しながら、今一度要の現在の姿を眺めてみた。藍色の生地に紫のアサガオ柄の浴衣。短髪が映える気がするのは気のせいだろうか。
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