プロローグ

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 まだ卒業してから10年も経っていないのに、もう懐かしい思い出が蘇ってくる。  俺はその敷地に、卒業生として初めて足を踏み入れた。  正面玄関の脇口から入ると、感覚だけがあの頃に戻ったみたいだった。その気持ちを抑えて、事務室で受付をする。 「すいません。この学校の卒業生ですが……」  応対してくれた人は、俺が在籍していたころから何度か顔を合わせたことのある萩原さんだった。 「ああ、卒業生ね。今回はどんな用で?」 「久しぶりに帰って来たので、ちょっと見て行こうかと……」  俺がここに来た理由を言うと、萩原さんはあの頃と変わらない笑顔を向けた。  「ああ、そうかい。じゃ、ここに名前書いたら、入校許可証持って行って」  俺は来校者の欄に名前を書き、言われた通り許可証を持って事務室を後にした。  今一度、事務室の周りを見渡してみる。雰囲気も何もかも、全く変わっていない。唯一変わったと思うところは、探そうとしても見つからなかった。  ここで立ち止まっていても何も得られないので、俺はとりあえず校舎内を見てみることにした。  最初に立ち寄ったのは、俺が一年の頃に過ごした教室の廊下だった。窓の外ではソフトボール部が汗を流している。対して教室内には、誰の気配も残っていなかった。俺はそのまま二階に上がった。  二階も、職員室に向かう廊下がある以外は一階とほとんど変わらない。その後もいろんなところを見て回ったけれど、やはりどこもかしこも全く変化が無かった。  校舎内をほとんど見て回ったので帰ろうかと思い始めた時、俺はボロい印象の校舎の三階にいた。校舎内には部活をしていたり、補習を受けていたりで生徒の数も多かった。  階段を下りて事務室に許可証を返しに行こうかと、階段に足をかけた時だった。  全体重の半分以上を前に押し出す状態で移動していた俺は、そのまま階段を踏み外して頭から踊り場に落下した。一瞬、何が起きたのか分からなかった。いつの間にか天変地異が起こったみたいに視界が反転していて、次の瞬間には頭に鈍い痛みが襲った。幸い、流血はしていなかった。ただ、打ちどころが悪かったらしく、俺の体は動いてくれなかった。動かそうとしても力が入らなくて、次第に意識が遠のき始めた。
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