9人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
1.
あの日から、とうとう雄二は完全に来なくなった。LINEもブロックされているのか、問いかけても何も返ってこない。それどころか、電話すら通じなくなった。
「何でこうなっちゃったんだろうな……」
いつかのように、中庭に二人。俺と要だけがその場にいた。今の太陽の位置は、校舎に隠れる場所にある。それはまるで、灼熱の太陽から隠れるように俺たちが中庭にいることを意味しているようだった。
「なんていうか、あっという間に終わっちゃったね……」
要の声が暗い。よほどあのことがショックだったのだろう。雄二によって暴かれた、俺の気持ちを聞いたことが。でも、あれは不可抗力によって生じたものだと言える。要もその事は分かっているようで、俺が近くにいることに何も言わなかった。
「……要。その、言いたくなかったら良いんだけどさ……」
「うん……」
「何で、俺の事なんか好きになったわけ?」
深い理由なんて無い。ただ、俺ははっきり言って周りに合わせてころころと態度を変える人間だと自負しているから、それを差し引いたとしても俺のどこに好意を抱いたのかが、純粋に気になっただけだ。
「人を好きになるのに理由なんて、いる?」
「…………」
「たぶん、理由なんてないんだよ。その子が気になったら、もうそれはそういうこと」
「…………なるほどな」
「そういう拓真は?私のどこが好きになったの?」
「俺は、何ていうか、あまり恋愛とかしたことないから分かんねえけどさ、花火が打ち上げられていく時、訳も分かんないで要の事を意識してた。その時にさ、頭の中で今までの要との思い出が一気に思い起こされて、『こいつこんな顔してたんだな』って思って……。たぶんそれが、俺が要を好きになった理由だと思う」
答えになってないのが丸分かりだった。けれど、俺にはこれが精一杯だった。
「そっか……。これからどうする?」
何かが振り切れたのか、要はいつもの声の調子で言った。
「さて、どうすっかな……。夏休みもあとちょっとしかねえし」
今日は8月の24日。始業式まで残り1週間程しかない。
「あと1週間か。よし、じゃあ拓真―――」
要が跳ねるようにこちらを向いた。学校の中庭には私服で来ていたので、要のシルクでできたワンピースがはらんだ。
「私と、デートしよ」
最初のコメントを投稿しよう!