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1.
この状況が何なのか、俺には理解が追い付かない。今、俺の目の前には高校時代に仲の良かった(らしい)要と雄二(と名乗ったやつら)がいる。そこまではいいのだけれど、どうやらこの世界線に来たことでいくつか問題が生じているようだ。
俺の記憶が変わった。どういうことか簡潔に説明すると、俺が大学で培った知識や高校卒業後に築いた人間関係など、一言で言うと「高校以降の記憶」というものが俺の記憶から消えた。じゃあその代わりに別の記憶が入るかというとそうでもなくて、消えた分の記憶は、これから起こることによって埋め合わされるらしい。これは困ったことになったと、呑気に昼休みを満喫している場合ではないことだけが確かだった。
頭を抱える俺を横目に、要と雄二が何でもないように会話を展開している。
「でさ、今度の休みなんだけど……」
「お前またその話かよ?俺は家でゆっくりしたいんだっての」
「じゃあ、雄二の家まで押しかければいい?」
「何でそうなるんだよ」
二人がアスファルトの隅に生える雑草みたいにどうでもいいことを話している横で、俺はノストラダムスの大予言を聞いてしまったみたいに深刻になっていた。どうしたらこの世界から抜け出せるのだろう。
「じゃあ、拓真が行くんだったら良いけどよ……」
「………は?」
思わず顔を上げて雄二を見る。突然俺の名前が出されたということは分かったけれど、話題を聞いていなかったのでキョトンとするしかなかった。
「拓真さ、今度の休みって暇?」
要が聞いてくる。俺はと言えば、何もしないかこの世界から抜け出す方法を模索するかのどちらかなので、返事は決まっていた。
「まあ、暇ではあるかな……」
答え終わってから、俺は自分のした返答に困惑した。断ろうと思っていたのに、口が勝手に動いて要に有利な言葉を発していたのだ。
「じゃあさ、土曜の十時くらいに駅前来て!」
要が身を乗り出して俺に言う。この状態で断るというわけにもいかないので、俺は頷くことしかできなかった。
「お、おう……。土曜の十時な、了解……」
要の鬼気迫る願望に気圧され、俺は了承していた。
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