第1章 タイム・トラベル

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 自分のしたことが本当に分からない。考えてではなく、ほぼ無意識のうちに要と雄二と出かける約束を交わしていた。その結果、土曜日の午前十時。俺は越中荏原駅、ではなく電鉄富山駅にいた。俺の傍には、半袖のシャツにカーゴパンツの雄二と、冷涼感満載なスカイブルーのワンピース姿の要。二人の私服を見ることはあったのだろうけれど、今の俺にははじめての初めての事で新鮮だった。 「でさ、どこ行くわけ? 土曜のこんな時間からこんなところにさ……」  俺は若干の嫌味を混ぜて要に聞いた。俺としては、一刻も早くこの奇妙な世界から抜け出して、正規のルートを通りたいのだ。  なのに、そんな俺の切なる願いを踏みにじるように、要は端的に言った。 「どこって、雨晴(あまはらし)だけど?」  要は雨晴に行くと言い出した。ここからだと、電車を乗り継いで二時間ほどかかる。そんな場所にわざわざ行くということは、何か特別な事情があるのだろうか。 「まあいいじゃん、どうせ試合見てたら暑さなんて忘れるよ」  試合? ますます分からなくなって、俺は雄二に耳打ちで聞いてみた。 「なあ、要の奴、雨晴まで行って何するつもりなんだ?」 「さあ? とりあえず氷見のスポーツセンターまで行くとしか聞いてない」   雄二は雄二で、どこか遠くを見ているようで頼りない感じがする。今の俺の心情だとこいつが唯一の救いの綱だというのに、それも放棄しそうなくらいだ。抜けすぎてて頼りない。  考えても始まらないので、俺は腹をくくることにした。今のこの状況が飲み込めなければ、その時までこの時間を楽しむのもいいかもしれないと思うまでに落ち着いていたこともあったからかもしれない。  開き直った俺と、無垢な雄二、そして楽観的な要の三人で氷見まで行くことになった。ここから行くには、まず高岡まで行ってそこから氷見線に乗り換える必要がある。さっき財布を確認したら、氷見までの往復料金は余裕で有していた。  JR城端線で高岡まで行く。車内では空いている席に座って、三人でくだらないことを話し合っていた。とは言っても、俺はまだ慣れな事ばかりで二人に合わせることで精一杯だった。  高岡駅までは二十分ほどでついた。ここから今度は、JR氷見線に乗り換えてもうしばらく揺られることになる。  
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