第1章 タイム・トラベル

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 氷見線では、車内アナウンスに世界中で有名なあの作家さんのキャラクターの声が使われていて、氷見まで観光に来る観光客には人気だそうだ。  俺たちは観光者でも何でもない、ただの地元の高校生だから、そんなのに興味はない。四人掛けのボックスシートに座って、戯言や世間話なんかを狭い座席に同席させるだけで充分だった。道中、俺は気になって要に聞いた。 「要が市外に出たがるなんて珍しくね? なんかあったの?」 「どんだけインドアなやつに思われてんの、私。何もないよ。ただ県内で遠出してみたかっただけ」 「じゃあ、氷見のスポーツセンターはついでってこと?」 「そんなわけないでしょ。どちらかと言えば、この遠出がついでなの」  言ってることが矛盾してないか? と口にしそうになったけれど我慢した。いくらボックスシートとは言っても、他は普通の利用者で溢れているのだ。公共の場で騒がしくしないマナーは身についている。  会話に花を咲かせる俺たち二人をよそに、雄二は言葉通りに窓の外の遠くの景色を見ていた。俺ですら腹をくくってこの遠出を楽しもうとしているのに、こいつときたらまるで無関心だ。いつも眠そうな目をしているし、髪はボサボサでおまけに猫背だ。こんな見るからに根暗なオーラを駄々洩れさせているようなやつとつるんでいる俺と要は、周りから見たらどう見えるのだろうか。 『次は終点、雨晴~』  車内のアナウンスが流れた。いつの間にかかなり氷見市に近づいていたらしい。俺たちは冷房の効いた過ごしやすい空間から、太陽が照り付ける大地へと駒を進めた。 「うわっ! あっつ……」  ホームに降りた時点でかなり暑かった。思わず声が出てしまう。とはいえ、ここでグータラしていても何も始まらないので、俺たちは改札を抜けてアスファルトの道を踏みつけた。 「でさ、これからどうすんの?」  さっきは黙り込んでいた雄二が、ここに来て口火を切った。さっきのツケを払うとでもいうように、要にこれからの事を尋ねている。  「この後はそこのシャトルバスに乗って、スポーツセンターまで一気に行くよ」  「あいよー」  気だるげな返事をして俺に目配せをする。俺は適当に頷いておいた。  雨晴駅の駐車場に構えるシャトルバスに乗り込むと、程よく聞いた冷房が再び肌を突いた。三人で一番奥の席に座り、一番窓側に雄二、その隣に要、俺と続いた。
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