33人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
side-颯太-
「やだ、颯太」と、いちこの可愛い声が響きわたるのは俺の部屋。
上目遣いでおねだりしているような仕草は昔からで、計算してるんじゃないってわかりながらも、やっぱり可愛いなぁと、こんなときでも思ってしまった。
「ダメ。やるって言ったのお前だろ?」
「だって、わかんなかったんだもん」
「だから、俺が今、教えてやってるんだろうが」
「だってこんなに難しいなんて、思わなかったんだもん! やっぱりやりたくない!」と、言ってテーブルの上に広げた数学のノートを閉じた。
「おい、いちこ」と、続きを教えようとしたのに、ふらふらと俺のベッドに潜りこんだ。
ふて寝してごまかす気だってわかる。堂々と。
「いちこ」と、めくろうとすると、「お布団、颯太の匂いするね」と言った。
「俺の匂い?」
「うん」と、弾むように言うから、不覚にもまたドキッとした。
ていうか、ベッドの中ってどんだけ無防備なんだよ。
キスだって、あまりしてくれないくせに、ずるいよ。まったく。
ならさ。
「一緒に寝てもいい?」と、訊いた。
なのにその直後、すーすーと寝息。
というか、勉強。
「いちこ、起きろ!」と、無理矢理、剥ぎ取った。
最初のコメントを投稿しよう!