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家に帰ると、母は虚ろに僕を見てそっと、それでいて強く抱きしめてくれたのだった。
言葉はなかったが愛情はあったのが分かった。
きっとこの温もりが愛情と呼ばれるものなのだろう。
僕は本当にこの人を母と呼べた事が何よりも嬉しい。
かじかんだ冷たい手を彼女の背に回して僕は息を吐くようなかそぼい声で「ありがとう。母さん」と囁いた。
彼女の温もりを忘れないように目を閉じ覚え、次に目を開いた時には父と目が合った。
憎悪にまみれたその目が僕は嫌いだ。
だが、今はその顔もいつもと違っていて、包帯巻だったのだ。
母の方に手を置いて、もう十分だよと感謝を表した。
その間、父は僕の目をじっと見たまま微動だにしなかった。
父の隣には黒いスーツに身を包んだ男が2人立っていて僕だけを見ていた。
そして手に持った用紙を開いて僕に向けてきた。
「家庭法149条11規約26項、保護者への暴行及び、不健全育成の罪によりあなたを破棄します。」
そう、この街では親に対する暴力は創造主への冒涜とされ、どんなことがあっても両親へ手を出すことは許されないのだ。
破棄とはすなわち処分。
出来損ないは捨てられ、殺され、忘れ去られる。
そういう街であり、こういう街が僕の街なのだ。
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