逃走劇は出会いの始まり

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「お前さんのおかげで、若い衆たちが喜んでいたよ。仕事だってそうそうあるもんじゃ無しに、暫く仕事にありつけるってな」  そう言い、主人はカウンターの上に年期の入った酒瓶と、ビー玉に似た様々な色のついた半透明の玉を長髪の男の前に置いた。これは何だと言いたげな長髪の男が口を開く前に主人は続ける。 「もう偵察烏が見に行ったそうだ。相当デカイ獲物だったんだな、報奨金が出ていたから持って来たぞ。酒は俺からのおごりだ」 「そうか。ならこれは貰っておこう」  腰のあたりに付けた小さな袋を取り出すと、そこに玉を入れると腰に再びしまった。  この世界に通過は無い。一般的には物々交換が普及している。しかし、物好きな冒険者や特産品を売買する為に、渡り歩く行商人が居ない訳では無い。  そこで、通貨の代わりにこの世界では無価値な宝石を全て球体に加工し通貨の代わりとしてギクと呼び使っていた。  水を一気に飲み干す。喉から体の芯に染みる様な冷たさが、火照った体を一気に冷却していく事が解った。開いたグラスに先程貰った酒瓶を傾けると、冒険者の空いたグラスにもなみなみと酒を注いぎ、サングラスの向こうから呑めとでも言いたげな表情が伝わって来た。 「おごりだ。主人も」  勝手にもう一つグラスを取ると酒を注ぎ、主人にも酒を注ぐと三人で乾杯をし、大物を狩った祝いをするが如く順番に酒が回って行った。そこで驚くべき事ではあったが、一番に飲み潰れたのは此処飲み屋の主人であった。 「此処の主人は下戸だ、話を聞かれたくなかったんでな。本題はこっからだ、何故お前はサンドクローラーに追われていた。あの猫は?お前は一体何者なんだ」  長髪の男はその真紅の髪を靡かせながら、顔色は勿論、表情一つ変える事無く酒を煽りながら聞いて来た。
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