逃走劇は出会いの始まり

11/24
前へ
/387ページ
次へ
「名はセイハだ。訳有ってキットと旅をしていたんだが、あの砂漠の化け物の巣穴に迷い込んだ所為で、いつの間にか追いかけられていた。アンタの名前は?」 「俺はエンジだ。しかし、おかしな話だ。サンドクローラーは巣穴など持たないはずだが、嘘を吐くんならもっとマシな嘘を吐くんだな。下らん嘘は身を滅ぼすぞ」  真っ赤な長髪を靡かせたエンジは、再び顔からグラスに口をつけると、そこいらに有った酒瓶にまで手をかけていた。その姿を見ながら、どう話を切り出そうかとセイハは迷った瞳を泳がせていた。  勿論、酒のせいでは無かったがどうしたものかと物思いにふけつつ、本当にこの男を信用していいのか?いやむしろこの男から逃げる術など無いのではないだろうか。キットの居ない今逃げる事など恐らく皆無である。  ならば結論は一つと、ため息交じりに意を決し再び口を開いた。 「いや、サンドクローラーには巣がある。一般的には無いとされているが、俺はその巣窟に行ってお宝をくすねて来たのさ」  そう言い、セイハは胸元から空色の結晶を取り出すとエンジの前にそっと結晶を置いた。正直、コレを見せたくは無かったが、今ここで死んでしまったり囚われてしまっては意味が無いと腹を括ったのだった。 「これは。本物か」  突然、エンジの顔色が変わった。驚きと焦りの入り混じった表情は驚愕に満ちていた。こんな物が本当にこの世に有っていいのかと言いたげな顔のまま、その結晶をそっとセイハに返した。 「俺にはこれは危なすぎる。小さな欠片でさえ数回しか見た事が無かったが、これは最早国一つと引き換えに出来る代物だぞ。こんな魔物結晶体一体どうするって言うんだ」
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加