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店を追い出された二人は言葉を交わす事も無く、エンジはもう面倒だから好きにしろと手をひらひらと仰ぐと、自分が今泊って居る宿へと帰ってしまった。セイハはまだ開いている店を見つけるとキットの為の食事と水を確保し、町外れに戻って来ていた。
エンジと言う男は人智を超えた力を持っていたが、蟲と言う名の化け物共に対しては警戒を絶やす事の無い神経質な男であり、面倒事が嫌いな人間だと言う事は解った。
道中。町の品々を見ながら戻っていると、何人かの孤児の様な子ども達が取り囲んで来ていた。エンジと一緒だと怖がって近づかなかったようだが、セイハ一人であるとただの冒険者でしかない。
「なぁ、これ買ってくれよ!水が何と今なら一袋300ギクだから」
セイハはどうせ居る物だからと、相場の三倍以上の水を黙ってギクを手渡し粗末な袋に入った水を受け取った。ギクを手にした子ども達はお礼を言うとそのまま何処かに行ってしまった。
「オソカッタナ」
キットは丸くなり岩のような擬態をしていたが、セイハが近づくと元の巨大な猫の形に戻り出迎えてきた。暫く動いていなかったせいか、小さく伸びをし欠伸までしていた。
「すまんね、でもキットも悪いんじゃないか?擬態化されたらさすがに解んないし」
そんな事は知った事では無いと、セイハが持っていたお土産を口で奪うと、器用に食べ物を勝手に食べ始めた。その最中、キットは突然動きを止め水の入った袋を見ながらセイハに尋ねた。
「シツノ、ワルイミズダ」
「ああ、この町の現状だ。その水で生活しその水で生きている。他の店も見て回ったが、良い精製機を持っているのは酒場だけ、作れるのも少量だった。多分、誰もよそから来た人間は買わんだろうな」
子ども達の持って来た水はそれほどまでに濁り質も悪かった。慈善的でなければ誰も買わないような水を持って来たセイハを、キットは少し見るとため息交じりに黙って水を飲んだのだった。
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