逃走劇は出会いの始まり

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「サンドクローラーの解体作業が終わった?嘘だろうあのサイズで、まだ三日目だぞ」  作業員の一人が監督に話すと、村の若者たちは既に作業を片づけ始めていた。早く作業が終われば普通は喜ぶところではあるが、元より職の少ない場所でやっと見つけた仕事があっという間に終わったのである。  喜ぶどころか、暫くは安泰のはずの仕事が無くなり肩を落とす者達ばかりであった。喜んだ者は監督と責任者とその他二人である。 「いやぁ。従業員の人件費が浮いてこっちは大助かりだったよ。二人とも今後ともご贔屓に頼むよ」 「御免だね。俺はもうすぐ町を出るんだ」 「私はまだ暫く居ます。此処の町を復興するのにもう少し時間がかかりそうですので」  小太りで如何にも金持ちと言った成り金趣味の男。真っ赤な軍服に金の刺繍をあしらった上着に真っ白なズボンを着込んだ砂漠では場違いな男がそう言うと、エンジとセイハはバツが悪そうに小さくお辞儀をした。  エンジはそもそも町を出るつもりであったが、あの居酒屋の店主の所為で三日も足止めを喰らった為、痺れを切らせて自分の怪力であっと言う間にサンドクローラーの死骸を町の近くまで運んで今に至る。  腐敗臭がする為、町の中に持って入る前に解体を行わなければならなかった。元は体液を採取してから干上がった皮と繊維を解体する作業であった。水分は重みと言う名の労働の元でもある為である。  体液の抜き取り作業も解体作業も残ってはいたが、町近くで有ればわざわざ砂漠に赴く危険も無い為低賃金で解体作業を行える人間はわんさかいる。故に二人は作業員から冷たい視線を浴びる事となってしまったのだった。
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