逃走劇は出会いの始まり

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ーーーーーーーー煙を吐くそれは、すでにホエールと呼ぶには不気味過ぎる姿と凶悪さであった。  ジャンボジェット程の大きさのサンドホエールは全身が粘液で纏われ、胴から突き破る様にして蜘蛛のような毛で覆われた足がムカデの如く側面全体に生えていた。  そこ以外には何千もの目が有り、絶え間なく左右に動き続けながら辺りを警戒し、時折、巨大コンテナですら飲み込めそうな口を開け、鮫のような歯を見せつける様に咆哮を響かせていた。 「想像以上に厄介だな。この世界において、出会ったら最後と言うレベルの化け物に立ち向かうのは」  セイハはキットの背中の上で、まだ始まってもいない戦いを想像しながら全身の水分を絞り出したかのような拭いきる事が出来ない程の汗をかいていた。  しかし。キットも同じくセイハが掴まっている場所から鼓動が伝わる程、緊張している事が伝わった。 「トコロデ、ショウサンハアルノカ?」 「あぁ、一回こっきりの必殺技だよ。上手くいけば俺は英雄で、この先も語り継がれる様な男になれる」  逃げた奴隷なのに、語り継ぐ者すらいないこの現状でそう言い切る事の出来るセイハを見て、キットはこんな無謀な人間は見た事が無いと目を丸くして、耳だけセイハの方に向けていた。
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