お嬢様とメイドと移動要塞

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  両手をグーの形のまま口元を隠し、全身を横向きに丸めながら薄っすらと紅潮した頬にはキラリと光る涙が一筋流れた。  潤んだ瞳は大きく開かれまるで潔白を訴えるかの様に、此方を横目で見つめてくる。突然こいつらが私をイジめてきたのだとでも言いたげな雰囲気で泣く為、何故か罪悪感が残る結果となった。 「ホダサレルナ。ウソナキダ」  そうに決まっているだろうと肩をすくませながらキットがそう言うが、セイハは慣れていない所為かオロオロとするばかりである。 「ダイタイ、コウゲキシテキタダロウ」  そうキットが訴えると同時に一瞬にして形勢は再び変わる。この隙をついて、突然に魔術は再び発動された。  一瞬の閃光と戸惑いの中、その魔術はセイハを狙ったものだったが、キットはセイハを庇うようにしてのしかかると、痛みを堪えんとする悲鳴にも似た咆哮を上げた。  見るとキットの尾は縦に切り裂かれており、当然の事ながらキットがのた打ち回る様に転げまわった。 「何て酷い事を!ただ助けた人に何でこんな事されなくちゃいけないんだ!」  セイハは怒ってた。あまり感情を激しく変化させる様なタイプでは無かったが、キットとの信頼関係がそうさせる事が解る程、激昂している事が解った。
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