逃走劇は出会いの始まり

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「止まれって言ってんだろう!向こうには人ではどうする事も出来ないような化け物が立ち塞がってるんだ!!見りゃあ分るだろうが!!」  一瞥もくれず、ただ面倒くさそうに舌打ちをした長髪の男は、冒険者とキットに向き直る事もせずにどんどんサンドクローラーの方へと歩みを進めていた。  勿論、眼前には遠目でも解るほど巨大な人面芋虫が差し迫ってたが槌を肩に掛けると、どっしりと腰を落としそのまま動かなくなった。  キットと冒険者は止まった長髪の男の側で止まるとフードを取ると視線を遮る様にして長髪の男の眼前に立った。  ボロボロの薄汚れた麻布で出来た服は、一目見れば貧困層と解る出で立ちである。そこには真っ白な髪に傷だらけの顔が有った。  薄浅葱色の瞳には光が宿る様に、真っ直ぐな決意の視線を目の前の男に突き刺した。 「何が有ったか知らんが、こんな所で死ぬ事はないだろう!俺を見ろっ!こんな成りだがキットに命を救われ今まで生きて来たんだ、だから」 「勘違いするな。俺は死にに来たんじゃねぇ。あの虫を駆除しに来たんだ。とっとと失せな奴隷野郎」 「イクカ」  もう話は無いと、キットは一度降ろした腰を上げ冒険者に早く背中に乗れと促したが、再び首を振った。此処まで来ると正直キットでも逃げおおせるか解らない位の時間しか残されてはいなかった。 「そうだな。此処まで来た褒美に名前くらい聞いてやろうか、間抜け野郎。水色の瞳に生まれた苦労で引き止めようなんざ、しみったれた奴隷にはお似合いだな」 「悪かったな。だが見殺しにした方が俺は一生後悔すると思って此処に来た。アンタの為じゃねぇ。名前は、、、、、、、何だ!」  そう言うや否や、まだ距離があると思われたサンドクローラーの奇声がすぐ側までやって来ていた。奇声と言うに相応しい不気味で気分が悪くなるような、甲高いガラスを擦った様な咆哮は身構える事を余儀なくするような程であった。
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