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三
「……あかり?」
心配そうな康充の声が上から降ってきて、私はゆっくりと目を開けた。
ジャージ姿で、桜の木の下に大の字になっている私は、さぞかし奇妙に映ったことだろう。
「大丈夫よ」
少し笑って答えたら、余計に心配そうな顔をされた。それはそうかもしれない。きっと今の私は逸脱しているようにしか見えないのだろう。
「ここにミケ子さんが眠ってるの。ミケ子さんを感じたくて。ミケ子さんが見てる空を見たくて」
「そうか……」
康充は供えてあるお花から少し離れたところに静かに腰を下ろした。寝転がったままじゃ悪いかと思い、私も起き上がった。軽く髪を払い、服のほこりを払う。それから康充の隣に座った。木に背中を預ける。肩が触れるか触れないかの距離だ。無言でペットボトルと小さな包みを手渡された。ペットボトルを開けて一口飲んだら、体の中がほわんと暖かくなった。もう一つの包みをそっと開けてみる。
「またたび?」
「うん。お供えしようと思って持ってきた」
「ありがとう……ミケ子さん、喜ぶよ」
木にもたれたまま、空を眺める。風が吹いて、桜の枝が静かに揺れた
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