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 目は鋭さがだいぶなくなり、ぼんやりした感じの表情になった。いつも綺麗に手入れしていた毛並みはパサつき始めた。食欲もぐんと落ちた。  一度老い始めると、あとは加速する一方だった。  今では歩くのもままならず、猫用トイレまで這うようにしてやっと辿り着く。私にできることは、寝床の近くにトイレを移したことと、寝ている場所からトイレまでのあいだを綺麗に掃除するぐらいだ。汚い床を這わせたくなかったので、せっせとウェットシートで拭いた。歩くのがそんなに辛いのならと、抱き上げてトイレまで運んだら、とても怒っていた。プライドに触れたのだろう。ミケ子さんは誇り高い。  なので、トイレまで這っていくミケ子さんの姿は見えない振りをした。一日中寝ている姿を見るとたまに不安になって、そうっと触って呼吸を確かめた。私の指が触れると、うっすらと目を開けて、不機嫌そうな表情になり、それから必ず睨んできた。それでも嬉しかった。まだ私だと認識できていることが、息をしていることが、そんな些細なことの全てが、涙がでるくらい嬉しかった。
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