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いっそ狂ってしまえたらどんなに楽だったでしょう。
私を慰めてくれるのは、あの庭にある大きな桜の木だけでした。
春が来るたびに、あの満開の桜の木の上で指切りをした日を思い出すのです。
一緒に歩いた裏山のお散歩。
魚を獲って遊んだ川。
馬に乗って走った由比の浜。
初めてこんなに近くで海を見たと言った、あの澄んだ瞳。
たった一年余りでも、私にとっては何より大切な大切な四百日なのです。
何度でも思い出すたびに義高様にお会いすることができるのですから。
私がこんなに長い時間を泣いて過ごすなんてことを、誰も想像していなかったことでしょう。
どんな高価な薬も優しい言葉も私の体は受け付けず、ただいたずらに時は流れていくだけでした。
月日が経って、私は十二歳を過ぎ、義高様の年齢を越してしまいました。
背丈も伸びて髪も伸び、知らない間に体だけは大人になっていくのです。
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