第一章 「つついづつの恋」

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そして、四月二十六日――― その日は朝から重苦しい空気が垂れ込めていました。 相変わらず「義高様」と言い続ける私に、女房たちは誰ひとり目を合わせてはくれません。 一体何があったと言うのか… 聞くのも恐ろしく、ただ大人の顔色を見続けていると… 「姫様」と一人の女房が声を掛けてきました。 見ると、一年前に「姫様にお婿様がいらっしゃいます」と教えてくれた、あの若い女房でした。 「姫様、義高様がどこにいらっしゃるか本当にお知りになりたいですか」 「えっお前は知っているの?」 「はい」 「おしえてっ」 私は掴みかかるようにその女房の手を握りました。 「本当に聞きたいですか」 「ききたい!義高様はどこにいるの?」 「義高様は遠くに行ってしまわれました」 「遠く?遠くって…木曾?」 「いいえ。木曾ではありません。義高様はお亡くなりになったのです」 「なく?…なくなった?」 「そうです。もうお戻りにはなりません」 「…なにを…そんなわけは」
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