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そして、四月二十六日―――
その日は朝から重苦しい空気が垂れ込めていました。
相変わらず「義高様」と言い続ける私に、女房たちは誰ひとり目を合わせてはくれません。
一体何があったと言うのか…
聞くのも恐ろしく、ただ大人の顔色を見続けていると…
「姫様」と一人の女房が声を掛けてきました。
見ると、一年前に「姫様にお婿様がいらっしゃいます」と教えてくれた、あの若い女房でした。
「姫様、義高様がどこにいらっしゃるか本当にお知りになりたいですか」
「えっお前は知っているの?」
「はい」
「おしえてっ」
私は掴みかかるようにその女房の手を握りました。
「本当に聞きたいですか」
「ききたい!義高様はどこにいるの?」
「義高様は遠くに行ってしまわれました」
「遠く?遠くって…木曾?」
「いいえ。木曾ではありません。義高様はお亡くなりになったのです」
「なく?…なくなった?」
「そうです。もうお戻りにはなりません」
「…なにを…そんなわけは」
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