第一章 「つついづつの恋」

14/20
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
そんなわけはない。 強く否定したいのに、私の口はどうしてしまったのか、まともに言葉が出てきません。 血の気は引き、体がぶるぶると震えだすのが自分でもわかりました。 そんな私にかまうことなく、この女房の言葉は続きます。 聞いてはいけない。 心のどこかで叫んでいるのに、聞かなければいけないと思う自分も確かにいるのです。 「お可哀想に。姫様のお父様はひどい。せっかくお母様が女の着物を着せてお逃がしになったのに、最期は川のほとりに追い込まれて…首を…。無残なことです」 その女房が口にした言葉の一つ一つの意味が、私の頭の上からつま先まですーっと下りて、全身で理解をした瞬間、私の中の何かがはじけ飛んだのでした。 「きゃーーーーーーーーー!!!」 「姫様?」 「きゃーーーーーーーーー!!!」 「姫様!だれか!大姫様が」 金切り声を上げて叫び続ける私の声を聞いて、御所中から人が集まって来ました。 目を見開いて叫びながら自分の髪を掻きむしり、両手両足をばたつかせて暴れる私を抱きとめたのは母でした。 「姫!姫!」 「きゃーーーーーーーー!!!」 「だれが!だれが言ったのです。姫に、姫に誰が…」 そう言う母も泣いていました。 誰もが一言も口を利かず、一人叫びながら暴れる私を囲んで、そこにいる全員がただ泣いていました。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!