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そんなわけはない。
強く否定したいのに、私の口はどうしてしまったのか、まともに言葉が出てきません。
血の気は引き、体がぶるぶると震えだすのが自分でもわかりました。
そんな私にかまうことなく、この女房の言葉は続きます。
聞いてはいけない。
心のどこかで叫んでいるのに、聞かなければいけないと思う自分も確かにいるのです。
「お可哀想に。姫様のお父様はひどい。せっかくお母様が女の着物を着せてお逃がしになったのに、最期は川のほとりに追い込まれて…首を…。無残なことです」
その女房が口にした言葉の一つ一つの意味が、私の頭の上からつま先まですーっと下りて、全身で理解をした瞬間、私の中の何かがはじけ飛んだのでした。
「きゃーーーーーーーーー!!!」
「姫様?」
「きゃーーーーーーーーー!!!」
「姫様!だれか!大姫様が」
金切り声を上げて叫び続ける私の声を聞いて、御所中から人が集まって来ました。
目を見開いて叫びながら自分の髪を掻きむしり、両手両足をばたつかせて暴れる私を抱きとめたのは母でした。
「姫!姫!」
「きゃーーーーーーーー!!!」
「だれが!だれが言ったのです。姫に、姫に誰が…」
そう言う母も泣いていました。
誰もが一言も口を利かず、一人叫びながら暴れる私を囲んで、そこにいる全員がただ泣いていました。
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