第一章 「つついづつの恋」

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それから私は水も食べ物も一切受け付けず、何日も高熱に苦しみました。 熱が下がってからも人を寄せ付けず、小御所の一番奥の坪で、ただ息をしているだけの人形になりました。 母が毎日枕元にやって来ては「大姫、許しておくれ」と泣くのを見ても心は動かず、 あの女房が言ったことがどこまで本当だったのか、考えることもしませんでした。 お父様が本当にそんなことを? 私のお婿様をお父様が? 頭に浮かんでは振り払って 「これは何かの間違いだ。きっと悪い夢を見ているのだ」と思い込むようにしました。 義高様はきっと戻ってくる。 ひょっこり庭に顔を出して、「ごめんよ」と笑ってくれる。 そう思い込むことで薄氷を踏むような日々をなんとか過ごしていました。 そして二か月が過ぎた頃。 いつものように私の顔を見に来た母が言ったのです。 「大姫、悪い奴はお母様が懲らしめましたよ。お父様はただ騙されただけなのです。本当に悪いのは別の奴だったのです。もう退治しましたからね」 それがどういう意味なのか、やっぱり考えることはしませんでした。 母が父を庇っている。ならばやはり父が義高様に手を掛けたのだろう、と頭のどこかで理解をしただけです。 伏せってばかりいる私を心配して叔父や叔母が訪ねてきても、誰もが私から義高様を引き離した敵に思えて 「私は一日中義高様のことだけを考えていたいのだから、邪魔をしないで」 と追い帰したりもしました。
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