第一章 「つついづつの恋」

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―――筒井筒 井筒にかけしまろがたけ    過ぎにけらしな妹みざるまに――― 伊勢物語に綴られたこの歌から、幼馴染の間柄、幼い頃の男女の恋のことを「筒井筒の恋」と呼ぶそうです。 「筒井戸を囲う井筒と比べあった私の背丈も、もうその井筒より高くなってしまったようだ。あなたに合わないでいるうちに」 そう歌っているのは男性でしょうが、この歌は私にとって自分自身を慰める歌。 いつの間にかあなたより背丈が伸びて大人になってしまったけれど、この世の誰があなたを忘れても、私だけは決して忘れない。 六歳と十一歳のままごとのような二人だったけれど、あれは確かに恋でした。 どれだけの月日が経とうとも、心はあの時のまま。 あなたの胸の鼓動と共に私の時も止まってしまったのです。 今の私は生きているようで、生きてはいません。 この肉体が一日も早く若い命を燃やし尽くして、あなたの傍へ行くことだけがたったひとつの望みなのです。 あなたと初めて出会ったあの日の事を、私は毎日思い出しています。 決して褪せることのない、輝くような眩しい一日の事を。
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