第一章 「つついづつの恋」

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あれは、寿永二年―――私が数えで六歳を迎えた年でした。 父は源頼朝。母は北条政子。 父が源氏の棟梁として新府を開くために一族郎党を引き連れてこの鎌倉へやって来たのは、私がまだ三歳の時でした。 当時両親の子供は私だけ。大姫と呼ばれ、たくさんの乳母や女房達にかしずかれて私は成長したのです。 新しい都造りに懸命な父は、鶴岡八幡宮や御所の造営に力を入れ、鎌倉のあちらこちらで建材が運び込まれ、人の出入りも多く、鋸や金槌、ノミの音が響き渡り、とてもにぎやかな毎日でした。 元々は伊豆育ちの母の実家である北条家の叔父叔母は、みなおおらかで優しく、私のことを大変可愛がってくれました。 源氏の名のもとに集まって来た東国の武士たちは、初めは顔なじみになるまで時間がかかったものですが、みな鎌倉を盛り立てようと一生懸命で、父は有力な御家人と特別な繋がりを持とうと、次々と母の妹達との縁組を決めました。 毎年のように行われる豪華な祝言に、私自身も高揚し、叔母の栄子がたったの十二歳で輿入れをすると聞いた時には、幼いながらに自分の番が来るのも近いと思ったものでした。 京から取り寄せられる綾錦、磨き上げられた螺鈿細工や数々の嫁入り道具を見る度に、本物のお雛様になった叔母たちが羨ましくて、憧れが募って行きました。 昨年弟の万寿が生まれ、源氏の跡取りが出来たとそれは大変な祝賀になり、鎌倉は喜びに包まれました。 妊娠中の母を気遣い、安産祈願に明け暮れた父は、八幡宮から由比の浜に真っ直ぐ伸びる参道を造営し、神池を造り、安産、それも男子の誕生をひたすら祈ったようでした。 そして生まれた子が男の子で本当に良かったと、誰もが胸をなでおろしました。
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