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母は私にとって怖い人ではありませんでしたが、鎌倉に来て御台所と呼ばれるようになり、いつも忙しそうにしているし、弟が生まれてからはますます距離が出来てしまったようで、些細な話はできなくなっていたのです。
久しぶりに座敷で向かい合うと、母はきちんと両手を膝に重ねて話し始めました。
「大姫」
「はい」
「明日、木曾から義高様がいらっしゃいます」
「きそ…よしたかさま」
「そうです。お父様の従兄弟にあたる源義仲様の御嫡男で、このたび鎌倉でお預かりすることになりました」
「はい…あの、お年はおいくつなのですか」
「十一歳です」
十一歳…それは自分の年と十分釣り合っている気がしました。
「お母様。義高様は…姫のお婿様ですか?」
「まぁ…おほほ」
私の真剣な顔を見て母は袖を口に当てて笑い、教えてくれました。
「ええ、そうですよ。ご両親と離れて知らない土地に来るのですから、優しくして差し上げましょうね」
「はいっ!」
母がそういうのだから、もう間違いはない。
明日私のお婿様が木曾からやってくる。
私はまだ見ぬその方に、すでに恋をしていたのです。
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