第一章 「つついづつの恋」

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母は私にとって怖い人ではありませんでしたが、鎌倉に来て御台所と呼ばれるようになり、いつも忙しそうにしているし、弟が生まれてからはますます距離が出来てしまったようで、些細な話はできなくなっていたのです。 久しぶりに座敷で向かい合うと、母はきちんと両手を膝に重ねて話し始めました。 「大姫」 「はい」 「明日、木曾から義高様がいらっしゃいます」 「きそ…よしたかさま」 「そうです。お父様の従兄弟にあたる源義仲様の御嫡男で、このたび鎌倉でお預かりすることになりました」 「はい…あの、お年はおいくつなのですか」 「十一歳です」 十一歳…それは自分の年と十分釣り合っている気がしました。 「お母様。義高様は…姫のお婿様ですか?」 「まぁ…おほほ」 私の真剣な顔を見て母は袖を口に当てて笑い、教えてくれました。 「ええ、そうですよ。ご両親と離れて知らない土地に来るのですから、優しくして差し上げましょうね」 「はいっ!」 母がそういうのだから、もう間違いはない。 明日私のお婿様が木曾からやってくる。 私はまだ見ぬその方に、すでに恋をしていたのです。
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