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ある時、また姿が見えなくなり、庭で大声で名前を呼んでいると
「姫」
と声が聞こえました。
「義高様?どこ?」
「しっ!ここだよ」
もう一度聞こえた声は、庭で一番大きな桜の木の上からでした。
満開の桜の木を下から見上げると、太い幹の上からいたずらな目が私を見下していました。
「ずるい!姫も」
手を伸ばすと力強い手で引っ張り上げ、私を抱きかかえてくれたのです。
「すごい!木に登ったの初めてです」
「そう?俺は毎日登っていたよ。お気に入りの木があってよく昼寝したな」
「木の上でお昼寝ができるの?」
「うん。それぐらい木曾には大きな木があって、かくれんぼや雨宿りによく登ったよ」
そう言って遠くを眺める義高様の瞳はとても澄んでいて、真っ黒な夜の空にたくさんの星を散りばめたようにキラキラと輝いていました。
近くで見ると頬にはまだまるみがあり、少年らしさを残しています。
その凛々しい横顔を見ながら、姫のお婿様はなんてご立派なのだろうとうっとりしたものです。
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