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「ここは暖かいね。木曾ではまだ桜は咲いていなかった」
「そうですか。こちらはもう散り際です。桜が終われば菖蒲や杜若、梅雨時には紫陽花がとても綺麗ですよ。お父様が八幡様にお庭を造ったので見に行きましょうね」
「それは楽しみだね。ここでは何もかもが新しくて美しい」
「木曾も美しいのでしょう?」
「うん。だけど山の中だから、こことは全然違うよ」
「お山の上なら見晴らしがいいでしょうね」
「うん。でもここの見晴らしも素晴らしい。ほら」
そう言って義高様が指差した先には海が見えました。
「あれは、由比の浜です」
「由比の浜かぁ。木曾には海はないんだ。ここで見るのが楽しみだった」
「今度、海に行きましょう。馬ならすぐですよ」
「海へ?行ってもいいのかな」
「もちろんいいに決まってます。姫がお母様にお願いしますから」
「ほんとに?」
「はい!その代り、姫も一緒に連れて行ってくださいね」
「あぁ、いいよ」
「指切り!」
そう言って差し出した小さな小指を、義高様は自分の小指にからめてくれました。
ひらひらと舞う桜の花びらが、二人の最初の約束の証人でした。
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