第一章 「つついづつの恋」

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それからは裏山にお散歩に行ったり、川で魚獲りをしたりと一緒に外へ出掛けて遊びました。 山育ちの義高様は木の名前や花の名前、虫や蝶にも詳しくて私が聞くことには全て答えてくれました。 川魚の獲り方や泳ぎもお上手で、一緒に泳ぎたいと言った時にはさすがにお供の従僕に止められましたが、私がやりたいと言ったことは何でも聞いてくれようとしました。 海へ行く時は自分で馬に乗ると言って、自ら手綱を取って気に入った馬を引き、私を乗せてくれました。 私が馬に乗ったのは、後にも先にもその時だけ…。 義高様と同じ鞍に乗せてもらった時だけです。 砂浜で珍しい貝を拾ったり、海に沈む夕日を眺めたり。 「あれが富士の山か」と海の向こうに見える霊峰を見つめる澄んだ眼差しに、傍にいた全員が微笑んでいました。 「波の音ってこんなに大きいんだな」 「潮風って匂いがあるんだな」 と、ここに住む人には当たり前のことを、その全身で受け止めているようでした。
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