ウラシノ

1/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

ウラシノ

 私の祖父母は山荘を持っていた。  母の実家から車で三十分、曲がりくねった山道をひたすら進んだ先に山荘はあった。周囲は鬱蒼とした木々で囲まれていたが他にも家屋があり、山荘ばかりが数軒集まった集落のような場所だった。  そこで祖父母は色んな野菜を作っていた。夏休みになると一家で里帰りをして、いとこの家族とバーベキューもした。  真夏なのに涼しくて、とてもいいところだ。ただ一点を除いて。  雨ざらしでぼろぼろになった人形が、山荘の玄関に吊る下がっていた。…まるで首吊り死体のように。  初めてそれを見た時は怖くて泣き出してしまった。多分小学生になったばかりの頃だったと思う。形状からして市販の、幼児がままごとに使うような普通の赤ちゃん型の人形…だが塗装が剥げて罅が入り、土にまみれて黒ずんだそれは化け物の類いにしか見えなかった。  何でこんな可哀想なことをするのか。その疑問を祖父に聞いたところ、この土地に伝わる風習なのだという。  祖父の話曰く、この山には『ウラシノ』と呼ばれる霊的な存在が徘徊しているらしい。      
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!