ウラシノ

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 その昔この土地は小さな村で、そこにはしのという名前の美しい少女が暮らしていた。ただの農民の娘だったがその容姿から将来は絶世の美女になるとされ、是非うちの倅と許嫁になってほしいという願いがひっきりなしだったという。  だがある日、しのは身売りされることになった。火の車の家計を救うため、口減らしと少しでも家計の足しにするためだ。まだ齢が十にも満たないしのだったが、それで家族が助かるならと自ら志願したようだ。  悲劇は身売りされる日の前日に起きた。  何処の誰とも分からない男の元に行かされるならと、しのを好いていた若い衆とその家族が結託。家族が寝静まった頃合いを見計らってしのを攫って殺害した。詳しい殺害方法は不明だが外傷は殆ど無かったらしい。しのの死体は美しい死に化粧と村で一番高級な着物と宝飾品で貴族と見紛うほどに彩られ、ある地蔵の下に埋葬された。  その後、しのは身売りを嫌がり逃げ出して行方不明になったということで処理。しのの家族は人身売買を生業とする輩から責任を追求され、一家まとめてどこかへと連れて行かれた。  それから月日が流れ、しのを埋葬した地蔵が壊れた。誰かが壊したとか台風が原因だとか諸説あるらしいが、兎に角地蔵は木っ端微塵になったそうだ。  地蔵があった場所の下には何もなかった。しのの骨はおろか着物や宝飾品すら何一つ残っておらず、代わりに大きな穴だけがあった。丁度子供一人分くらいの穴だった。     
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