ウラシノ

3/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 その日以降、村ではしのらしき少女を見かけるようになった。夜中に一人、村の中を彷徨っては誰かを探しているようだった。村人はその少女のことを裏=死後の世界より舞い戻ったしの、ウラシノと呼んで恐れた。身勝手な理由で自分を殺して隠蔽、挙げ句そのせいで家族が悲劇的結末を迎えたのなら恨まれて当然だ。事件の当事者とその家族は探しているのは自分達だと確信し、なんとかしてウラシノに対抗しようと高尚なお坊さんを呼んだ。  お坊さんはウラシノに見つからないよう身代わりになる物を用意しなさいと助言した。それを聞くと当事者達は急いで人形を作り、それぞれの家の前に吊した。当事者じゃない村人もとばっちりを受けないよう同じく人形を吊した。すると次第にウラシノを見かけることは減っていき、村に現れることはなくなったという。しかしウラシノが消滅したとは限らずまた戻ってくる可能性もあるため村では引き続き人形を吊し続け、それは村がなくなった今でも風習として残っている…。  その話を聞いて幼い私はなんてひどい話なんだと思った。しのという女の子は何も悪いことをしていないし村人は恨まれて当然だ、きっちり罰を受けないといけない…と。とは言え、無関係な私達にその矛先が向くのは嫌なので人形を吊すのも仕方の無いことか…と納得もできた。  ぼろぼろの人形は不気味であり良い気分ではないが、慣れてくるとそこまで気にならなくなっていった。そんなことより祖父母の畑仕事を手伝ったり従姉妹と山の中で遊んだりすることが楽しくて、ウラシノの話は頭の片隅に追いやられていった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!