ウラシノ

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 小学五年生の夏休み。  いつものように祖父母の山荘で遊んでいた。その日はいとこと一緒に山荘で一泊することになっており、夜遅くまで大騒ぎしていた。しかし十一時を過ぎた頃から眠気が襲ってきて、日付を跨ぐ前には全員床に就いていた。雑魚寝だったが何も気にならず、すぐに眠れた。  深夜。  尿意を感じ、目が覚めた。寝る前にトイレに行かなかったことを少し後悔した。  皆が寝静まり、虫の声だけが聞こえた。周囲は真っ暗、時計は見えず正確な時刻は分からなかったが、多分夜中の三時か四時くらいだっただろう。  そんな時間にトイレに行きたくはなかったが、我慢はできそうになかったので渋々行くことにした。  電気を点けるのは悪いと思い、壁に手をついて慎重にトイレへ向かった。足元がろくに見えず怖かったが幸い転ぶこともなく辿り着き、無事に用を足すことができた。  早く寝室に戻ろうとしたその時。  窓の外で何かが動いているのが見えた。  街灯がないのでその形は闇に溶け込んでいて分からない。  だがその何かは巨大な体を持っており、これまた巨大で一つだけの眼球を血走らせていることは分かった。  そいつは隣の山荘を見つめていた。何故かは分からないがただずっと見つめていた。  私は悲鳴を押し殺して寝室に駆け込み、頭から布団を被って身を震わせた。どんなに暑くても布団から出られなかった。もしかしたら布団の外で一つ目が見つめているかもしれない…そう思うと心臓がばくばくと飛び跳ね、抑えることができなかった。  結局、眠れないまま朝を迎えることになった。  朝食の席で私が夜中に見たものについて正直に話すと、祖父はウラシノを見たのだろうと言った。でも私にはあれがウラシノとは思えなかった。以前聞いた姿形とはあまりにも違い過ぎる。美しい少女と一つ目の巨大な化け物を見間違うわけがない。  でもそのことを言い出せないまま、どの家も人形を吊しているから大丈夫ということで話は終わった。
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