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「そうだよ。マサが言ったのか?」
「いえ。酒井さんが前にそんなことを」
「……懐かしいな。最初に拾ってきたときは、どうせすぐ音を上げて逃げ出すと思ってたんだよ。それが音を上げるどころか、今じゃすっかり根を下ろしちまったんだもんな」
上手いことを言ったつもりか、鈴木はボロボロの口の中を恥じることもなくニヤっと笑った。
「拾った……ですか?」
「ああ。駅前のベンチでな。服や靴なんかはそうでもないんだが、髪は脂ぎって髭も伸びきって酷いもんよ。そのくせ何か悟った見てぇな気味の悪い目しててさ、さすがに見過ごせなくて声かけたんだ」
「公園に誘ったんですか」
「ああ。いや、それは最後にな。俺だって最初は実家に頼れとか言ってやったよ。でもアイツ、親は死んで身よりも友人もいません。警察の世話になって仕事を辞めたから前の職場にも頼れません。有り金は全部女房に渡しました。女房は自分のせいで狂ったから頼れません。……ってな具合だ」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
真崎の過去について、多少の覚悟はできていたつもりだった。
だがこんなことを――しかもこんな形で聞くとは思っていなかった。ただほんの少し、鈴木の口から真崎のことを聞きたかっただけなのだ。
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