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「ここで若いやつって言やぁ、あのガキくれぇなもんよ。ついてきな。案内してやるよ」 「え……? あ、ありがとうございます」 「いいっていいって」  さっきまでとは打って変わり、老人は皺だらけの目尻を下げてニコニコと笑っていた。そうして見ると、少しみすぼらしいだけの、ただの好々爺だ。 老人は涼一に背を向けて歩き出す。涼一も後を追った。 「マサの小屋は一番奥にあんだよ。アイツは若ぇくせに働かねぇからなぁ。今日も家でゴロゴロしてっぞ」 林の中にはテントがいくつも建っていた。離れたところから見ている分には木や他のテントの影になって見えなかったが、少なくとも五軒は建っている。  木と木の間に張ったロープや段ボールで土台を組み、そこにブルーシートをかけて作っているのだろう。盆栽が大量に飾られたテント、開閉可能な窓やドアが付いたテント、ラティスで囲まれたテント……基本的な作りは同じでも、それぞれ少しずつ違っている。  一軒一軒が適度な距離を置いて建てられ、空き缶の入った袋や台車などの荷物は自分の家の周りにしか置かれていない。 少し開けた場所には共用とみられるガーデニングテーブルと椅子も置かれていて、気のせいか、ここには彼らなりの秩序があるように感じられた。     
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